それからあいつのことは、これっぽっちも頭に無かったが、ある日沙菜の話でもちきりとなっていた。

「おい、経理部の土屋さん見たか?めっちゃいい女だよな」

 はあ?
 
 経理部の土屋って、あいつの事だよな?

「確かお前同期だったよな?土屋さんて今フリー?」

「さっ……さあ?どうかな?」

 いい女って……。

 樹には一体何が起こっているのかわからなかった。 



 *

 
 数日後、樹が営業から戻りエレベーターに乗り込もうとしたとき、中から一人の美人社員が降りてきた。

 こんな美人この会社にいたっけ?

 目の前の美人が目を丸くして樹を見つめている。

 その美人社員の様子に樹は首を捻った。

 あれ?知り合いだったか?こんな美人忘れるわけがないが……。

 少しの間見つめ合っていた二人だったが、美女が頭を下げてその場を去って行ったため後ろ姿を目で追った。樹の後ろでエレベーターを待っていて二人の男性社員も美女を目で追っていた。

「おい、あれ経理部の土屋さんだろ?」

「ああ、噂の?美人だよな」

 なっ……あれが土屋沙菜だって言うのか……?

 嘘だろう……。

 全くの別人じゃないか。

 どうなっているんだ?



 あんなに綺麗になって……それってもしかして……俺のため?

 ポジティブな樹は思った。

 紗菜が綺麗になったのは自分の為だと。