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「沙菜さん!!」

 振り向くとそこには小田が立っていた。走って来たのか、息を切らしている。
 
 小田さん?

 あの日、小田は蒼士から牽制されたのにも関わらず、相変わらず沙菜に干渉しようとする。沙菜は蒼士の機嫌が悪くなるためあまり近づいてほしくないのだが、小田はクライアントだ。邪険にするわかにはいかない。


 はーー。

 困ったな。どうしよう。

 蒼士さんから小田さんと二人で会わないように言われてたのに……。どうしてこの人はここにいるのだろう。

 今、沙菜と小田がいるのは会社の会議室、会議が始まるまで三十分。沙菜は会議の準備のため会議室にやって来ていた。

「早く来て正解だったな。沙菜さんに会えた」

「受付に話はされなかったんですか?」

 ここに来る前に必ず受付でアポ確認をするはずだ。それからオフィスの蒼士さんの所へ連絡があり、会議室に通されるはずなのに……。

「ああ、受付の子に言ったんだ。いつも来ているから連絡しなくていいって」

 じりじりと距離を詰めてくる小田に危機感を覚え、沙菜は少しづつ壁の方へと後ずさっていった。そると、トンっと背中に硬い壁を感じ、これ以上後ろへ逃げることができないことを悟る。


 今日の小田さん雰囲気がいつもと違う。

 追い詰められてる感じ……?

 怖い……。

「あの、小田さん……そこをどいていただけますか?」

「んー?それは無理だな」

 小田はそう言いながら沙菜の囲むように両手を壁についた。


 壁ドン……。


 アニメや漫画なら胸キュンするシチュエーションだろう。しかし、今は危機感しかない。

「ああ、沙菜さんやっぱり最高だな」

小田さん一体どこを見ているの?

 沙菜は自分を守るように両腕を抱きしめ俯いた。

「沙菜さんそんなに俯いてないで……。あんなむさくるしい旦那やめて俺にしなよ」

 沙菜は顎をクイッと小田に持ち上げられてしまい、不敵に微笑む小田の瞳と目が合ってしまう。唇が触れ合いそうになるほどの近さに沙菜の体は気持ちとは裏腹に熱くなり赤く染まっていく。

「あれれ、可愛い。顔真っ赤っか」

「からかわないで下さい」

「からかってない」

 小田の唇が沙菜の唇に重ねられた。


「…………」



 えっ……。



 嫌だ……。



 蒼士さん……。


 体にぞわりとした寒気が襲う。




 ドンッーー!!


 その時、会議室のドアが蹴破られたかのような大きな音を立てて開いた。