エントランスを出ると沙菜はマンションへ帰ろうと駅へと向かっていた。そこへ後ろから声をかけられる。

「あのー。すみません」

 沙菜は声のする方へと振り返るとそこには先ほど会議へ通したクライアントさんの一人が立っていた。

「クライアントさん!!」

「小田信一郎(おだしんいちろう)って言います。クッキーごちそうさまでした。お礼にお茶でも行どうですか?」

 へっ……?

 クッキーでどうしてお茶?

「お名前聞いても?」

「あっ、相原……沙菜です」

 名前を言うだけで真っ赤になる沙菜に小田の目は釘付けとなる。沙菜としてはまだ言いなれない相原という苗字のせいなのだが、勘違いした小田はいけるとばかりに沙菜を押しまくる。


「さあ、行きましょうか」

「いえ、そういうのはちょっと……」

 近づこうとする小田を避けつつ丁重に断りを入れる。

 沙菜は頭を下げるとその場を足早に後にした。


「沙菜さんか……。かわいい子見つけちゃったな」

沙菜の後ろ姿を見つめながら小田が不穏な言葉を吐くのだった。