沙菜は鞄からもう一つ袋を取り出した。

「あっ、あとこれ……クッキー焼いて来たんですが皆さんでどうぞ」

 焼いたクッキーを出すと男性社員達が「うおー手作り!!」と雄たけびを上げていた。


 *

 沙菜はもうすぐ蒼士が昼休みだからと応接室で待たせてもらっている。十五分が過ぎたころ蒼士がお弁当と自販機で買ったお茶を二本持ってやって来た。

「沙菜、お茶でよかったか?」

「はい」

 お茶を受け取り微笑めば嬉しそうに蒼士も微笑む。

「沙菜はお昼食べてきたのか?」

「いえ、まだなんです。うまくいけば、蒼士さんと食べれるかなって……お弁当持って来たんです」


 えへへ。と笑う沙菜が愛おしくてしょうがない。

 蒼士は沙菜の頭を優しくなでると隣に腰を下ろした。



 お弁当を食べ終え、そろそろ時間だと立ち上がる蒼士。

 寂しいと思っていても声には出さない沙菜。

 寂しいと声に出してしまえば余計に寂しくなってしまうから……。

 蒼士が応接室から出ようとドアノブに手をかける前に振り返った。

「今日はなるべく早く帰るから……」

 寂しく思っていることに気づかれてしまったのかしら?

 蒼士は沙菜の体を両腕でしっかりと抱きしめ頭にキスを落とす。沙菜も蒼士の背中に腕を回しギュっと抱きしめた。

 寂しいと思っていたが、蒼士さんのおかげで、幸せゲージ満タンだ。

 蒼士と二人でオフィスまでの廊下を歩き、皆さんに挨拶をしたら帰ろうと思っていると、オフィス内が慌ただしくなっていた。


「どうした?何があった?」

「あっ、部長!!今日会議にくるクライアントから資料が届いてないって……」

「そうか、取り敢えずこちらに来てもらって、新しいものを渡すことにしてくれ」

「はい!!」



 オフィスが戦場と化している。沙菜はその様子を端で眺めていたが、どうにも体がうずうずとしてしまう。皆よく動いているのだが、なにせバラバラ。本社の社員に比べるとスキルも低い。

 蒼士さんが悩んでいたのはきっとこれだ。

 私にできることがあればいいけれど……。

「クライアント到着したって、会議室に通して!!お茶入れられる人いる?」

「無理ですよ!!」

「手一杯です」

 沙菜は端からおずおずと手を上げた。

「あのー。お茶ぐらいなら入れてもいいですか?クライアントさんも会議室にお通ししてきます」

「沙菜すまない。頼む」