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 三か月後、沙菜は蒼士と暮らすマンションで料理をしていた。


 本社の掲示板に蒼士の出向が張り出された日は大変な一日だった。それがなんだか遠い昔のようだ。あの日からすぐこのマンションを決め、自分の住んでいたアパートを引き払い退職届を出したりと毎日忙しかった。

 そう沙菜は会社を辞め、蒼士のサポートにつくことを望んだ。社長や社員達は沙菜が仕事を辞めることを寂しく思ったが本人が望むならと社長も辞表を受け取ったのだった。

 こっちに引っ越して一週間は片づけなどが大変なため蒼士も休みをとりラブラブな時間を過ごしたがその後は蒼士の仕事が毎日忙しく寂しい思いをしていた。

 今日も蒼士さん遅いのかな?

 スマホにメールが届く音がする。


 『今日も遅くなる。先に寝ていてくれ』


 蒼士からのメールに沙菜の口からため息が漏れる。

 はーー。


 つまらない。

 やることもない。

 

 沙菜は一人ベッドに潜ると寂しく眠った。





 次の日の朝、目を覚ました沙菜の隣には蒼士が眠っていた。

 何時頃帰って来たのか、ぐっすりと眠る蒼士の前髪を上げると整った顔がそこにある。

 かっこいい。

 沙菜はそっと蒼士を起こさないようにベッドから起き上がると台所へ立ち朝食の準備を始めた。夜は話ができないことが多いため朝のこの時間は沙菜にとって大切な時間となっていた。

 沙菜は慣れた様子でサラダとベーコンエッグと食パンを用意していく。その間にお弁当の準備。お弁当には鮭にきんぴらごぼう、アスパラの肉巻に彩のミニトマトとブロッコリーを添える。


 うん。上出来!!

 お弁当と朝ごはんは完璧。

 時計の針はもうすぐ六時三〇分になろうとしていた。

 そろそろ蒼士さんを起こさなくちゃ。

 「蒼士さん、起きてください。朝ですよ」

 布団を少しはがして体を揺すってみるが、疲れているせいか目を開ける様子がない。もう一度声をかけ体を揺すってみる。少しだが反応があるものの目を覚まさない蒼士。

 うんー。どうしたものか?

 時間があるならこのまま眠っていてもらいたいものだが、そうもいかない。それでもあと五分でいいから寝かせてあげたい。沙菜はそっと蒼士の頭から枕を抜くと自分の膝の上に寝かせ頭を撫でた。
沙菜の膝の上で無防備に眠る蒼士を愛おしいと思う。

 五分はあっという間だ。もう一度蒼士に声をかける。

「蒼士さん、起きてください。朝ですよ」

 沙菜は蒼士の耳元でそっと囁いた。

 すると目を覚ました蒼士が嬉しそうに沙菜の頭に手を伸ばし「沙菜来て」とキスのおねだりをしてくる。

 かっ……可愛い!!

 アニメーションならきっと沙菜の周りにはハートが飛び交っていることだろう。

 沙菜は蒼士のおねだりに答えチュッと唇にキスを落とす。

 すると、

「沙菜……もう一回」

 今日の蒼士はやけに甘えん坊だ。

 沙菜がもう一度蒼士の唇にキスを落とすと蒼士が沙菜の頭を押さえ甘いキスの時間が続く。

「んっ……そう、しさん……んっ……遅刻っ……」

「もう少しだけ……」


 そんな甘い時間を過ごしてしまったせいで、その後の時間はバタバタとしてしまった。

 蒼士さん遅刻しなかったかしら?