沙菜を奪い取られ樹は顔を歪めると声を荒げた。

「相原部長、何をするんですか?あなたには関係ないでしょう。これは恋人同士の痴話げんかです。口を挟まないでいただけますか」

蒼士は自分にしがみついている沙菜に優しく声をかける。

「土屋これは恋人同士の痴話げんかだったのか?俺は邪魔をしてしまったか?」

蒼士の言葉に沙菜は首を左右にふり蒼士胸にしがみついて離れようとしない。そんな沙菜を見ていた樹は沙菜の腕を掴もうとする。

「沙菜こっちへ来い」

「いやーーっ!!」

 そこで初めて沙菜は樹に抵抗した。

 その声に反応したのは蒼士だった。沙菜を抱きしめていた両腕に力を込めると、唸るような声が階段に響き渡る。

「畑中いい加減にしろ!!」

蒼士の声に営業部に残っていた人々や、廊下を使用していた職員が顔をのぞかせる。

「畑中、お前は一度土屋の手を離したんだ。そのことをわかっているのか?彼女がどんなに傷つき辛い思いをしたと思っている?」

「だからこうして寄りを戻そうとしているんじゃないですか」

「寄りを戻す……だと」

 その言葉に沙菜の体がピクリと反応する。それに気づいた蒼士は沙菜の肩に顎を乗せると耳元で囁いた。

「沙菜……行くな。ここにいろ、俺が守ってやる」

 その言葉に沙菜の耳や体が赤く染まりドキドキと高鳴る心臓の音。息を吸うことだけがやっとで、声を発することができず、蒼士にしがみついたまま沙菜は頭を上下に振った。

 蒼士は沙菜の頭を優しくなでると樹を睨みつける。

「畑中、お前の気持ちはもう土屋には届かない。諦めろ」

「はあ?なんで相原部長にそんなこと言われなくちゃいけないんですか?ああ、もしかして部長も土屋狙いですか?」

 からかうように、面白がるように樹が言い放てば蒼士がサラリと言葉を返す。

「ああ、そうだ。お前に沙菜は渡さない」