「「…………」」

 二人の間に沈黙が流れる。

「蒼士さん……」

 沙菜が蒼士の名前を呼ぶと蒼士の肩がピクリと跳ね、ゆっくりとした速度で歩いていた足が止まった。冷たい風が沙菜と蒼士の間を流れ沙菜の髪を後ろへと流したその時、風に乗って蒼士の呟いた声が聞こえてきた。

「沙菜……」

 えっ……。
 
 ええーーーーーー!!!!

 名前を呼ばれただけなのに沙菜の心臓はドキドキと早鐘を打ち、カーッと顔に熱が集まっていく。

「土屋が俺を蒼士と呼ぶなら俺も沙菜と呼んでもいいだろうか?」

 蒼士は右手を首に当てると、髪から覗く耳と首を赤く染め照れくさそうに沙菜から目を逸らした。その仕草が何とも可愛らしく沙菜の早鐘を打っていた心臓が今度はキュンッと鳴った。

 せわしなく変化する心臓に置いてけぼりになる沙菜の脳内。脳をフル回転させるがうるさく鳴る心臓のせいでパニックを起こし感情が爆発する。

 なっ……なにこれ、なにこれ、なにこれーーーー!!!!

 かわいい!!
 
 滅茶苦茶かわいい!!

 沙菜は両手で口を押さえると、コクコクと頭を上下に動かしてOKのサインを送る。その沙菜の動きを確認した蒼士が口元を緩める。

「沙菜……」

 蒼士がもう一度沙菜の名前を呼ぶ。

 もっ……もうやめて……蒼士さん声が良すぎるのよ。

 心臓がこれでもかと動き、呼吸もままならない。

 死んでしまう。

 私は蒼士さんにキュン死にさせられてしまう。

 お願いだから静まれ心臓!!