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 二時間の飲み放題が終了し、沙菜たちは居酒屋の外にたむろしていた。すぐそこまで春が近づいているといっても夜はかなり寒くコートがなくては出歩くこともできない。寒さに震えながら沙菜たち社員は蒼士に頭を下げていた。

「部長ありがとうございます。全部出してもらって」

「ごちになります!!」

「あざーす」

 社員達が蒼士にお礼の言葉を述べていく。

「ああ、たまにはな、次はないぞ」

 そう言って蒼士が笑えば皆の視線が蒼士に集まる。目元が隠れていても口角が上がっている。

「ロボット部長笑えたんすね」

「ロボット部長ってなんだ。俺を何だと思っているんだ」

 万年働きづめの蒼士は社員達の間でロボットと陰で言われていた。休憩も取らず朝から夜遅くまで会社にいる蒼士はいつ眠っているのかと皆が思っていた。

「ほら、お前ら店先でたむろっていると店に迷惑だ。解散だ」

 社員達は「はーい」と返事をすると帰宅する人と二次会に向かうものと別れていく。夏は彼氏が迎えに来ているということで一番に帰って行った。

 沙菜も帰ろうとしていると、一人の男性社員が近づいてきた。

「土屋さんもう遅いから送っていきますよ。家はどっちですか?」

「えっ……あ……私は大丈夫ですよ。家までそんなに遠くはないし、歩いて帰れます」

 申し出にオロオロする沙菜の腕を男性社員がとろうとしたとき、沙菜の体が後ろへと引っ張られた。

 えっ……。

 驚いた沙菜が後ろへと顔を向けると沙菜の腕を掴んでいるのは蒼士だった。何やら威圧的なオーラを放つ蒼士の姿に男性社員がたじろいだ。

「土屋は俺が送っていくから心配するな。お前も早く家へ帰れ」

「えっ……ちょっと、俺が……」

 話は終わったとばかりに蒼士は沙菜の腕を掴んだまま歩き出した。沙菜はぽかんとこちらを眺めている男性社員に頭を下げると蒼士についていく。

 二人が歩いている歩道は昼間よりは人通りが少なくなってきているが、まだまだ人が多く行き交いしている。車の往来も激しく、車のヘッドライトが眩しい。そんな中をずんずんと足早に歩く蒼士は身長が一八〇センチを優に超えるだけあって足も長い。ついていくだけで精一杯の沙菜は、いつの間にか肩で息をし始めていた。そんな沙菜に気づいた蒼士は歩く速度をゆるめた。

「すまない……」

 ?

 沙菜には蒼士がなぜ誤っているのかわからない。

 蒼士が寂しそうにこちらを眺めていることも何故だかわからない。

「すまない……余計なことをしたか?」

 先ほど送ってくれると言った男性社員のことを言っているのだろうか?

「いえ、助かりました」

「そうか……」