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 エレベーター前で驚く蒼士を見つめていると、エレベーターの扉が開いた。

「あっ、部長エレベーター来ましたよ」

 エレベーターに乗ると沙菜は五階のボタンを押した。このオフィスビルは九階建てで、一階から三階までがテナントになっていて、コーヒーショップやコンビニが入っていてかなり便利。四階から営業部、五階が沙菜の務める経理部、六階が広報部、七階が宣伝部、8階が秘書室と接客室、9階は社長室と社長用の仮眠室と特別用接客室がある。

 エレベーターが五階で止まり経理部の扉を開くと、沙菜は自分のデスクへと向かい、仕事の準備を始めた。経理部には沢山のデスクが並んでいる。デスクの上には一人一台ずつのパソコンと、山積みになったファイルに書類に伝票、領収書の束、束、束!!

 このペーパーレスの時代にここまで紙があふれているのは経理部ならではだろう。

 沙菜は休んでいた分を取り戻すため仕事を始めると、経理部にどよめきが広がっていく。

「ちょっと、あの席って……」

「えっ……土屋さんなの?」

「マジか、超美人じゃん!!」

 経理部の人々が騒然とし沙菜に話しかけられずにいると、そこに勇者が現れる。隣の席の夏だ。

「……土屋さん、ですよね?お……おはようございます」

 目の前の人物が沙菜だと確信が持てないのか、眉を寄せ心配そうに尋ねる夏。

「おはよう茂木さん。そうだけどどうしたの?」

「どっ……どうしたのって、それはこっちのセリフですよ!!別人みたいで、ビックリなんですけど!!すっごく綺麗です」

 キャーキャー騒ぎ、興奮した様子の夏が、鼻息荒く沙菜に詰め寄る。

「ん……?ありがとう」

 沙菜がふんわりと微笑めば夏を含め、周りにいた人々の頬を赤く染めた。






 仕事を始めてから時間が過ぎ、昼に近づいてくると、デスクの上に置いてあった請求書、領収書の束が減っていく。

「土屋さん……土屋さん……」

 仕事に集中していた沙菜は夏の呼びかけに、ハッと顔を上げた。

「どうしたの茂木さん?」

「お昼休憩の時間ですよ。土屋さんはお昼どうするんですか?一緒に行きません?」

「あっ……私はお弁当持ちだからここで食べるわ。誘ってくれてありがとう」

 沙菜が素直にお礼を言えば何故か頬を染める夏。

 茂木さん少し頬が赤い……。

 昨日は少し寒かったから風邪かな?などと心配する沙菜だったが、頬を染めた夏たちは小さな鞄を片手に、オフィスを出ていった。