よく思い返してみれば、ここ数週間ちょっとおかしいことが多かった。マンションの管理人さんから「近々引っ越すの?」と話しかけられたり、両親から「あんたの婚約者、かっこいい人だね」と言われたり、職場でも彼氏のことを知らないはずの後輩から「先輩の彼氏、スパダリですね!」と目を輝かせながら言われたり……。

私が知らない間に、我妻さんは外堀を埋めていったんだ。そして、完全に私を逃げられないようにした。気付かなかった自分が情けなくてたまらない。

「逆らわないでくださいね。逆らったらどうなるか、充分理解できたと思いますので」

目の前で我妻さんはニコニコと笑い、絶望に浸る私の唇に自身の唇を重ねた。