「これで怖くない?」




 少しでも安心させようと、できるだけ穏やかに問う。雨香麗は首を小さく縦に振り、それっきり俯き加減で話すようになってしまった。

 ……無理、させてないかな。

 一抹の不安が()ぎる。でもここが安全なのは確かだ。あいつらの気配は微塵も感じないし、ここでは何も見たことがない。

 それ以前にここは与雅澄(よがすみ)神社の祠が祀られている場所。邪気のある者は近づけやしないはずだ。

 本当なら雨香麗が怖い、と言った時点で引き返した方が良かったんだろうけど、俺はそれでもあの景色を見せたかった。

 ……少しの間、辛抱してくれ。

 そうして歩いて行くと獣道は完全に途絶え、さらに鬱蒼と生い茂る木々が行く手を阻むように絡んでくる。森の奥へ進むほど天気は悪くなっていき、ひとつ、またひとつと小さな雨粒が降り注いだ。

 雨脚は次第に強くなり、森は更に暗さを増す。視界の悪くなった森の中、目印の大きな岩を見つけた。
 見間違えることのないほど大きなその岩の根元まで行けば、目的地は間近だ。




「……しずく。もうすぐ着くよ」




 俺の腕にしがみつくようにして歩いていた雨香麗にそう伝える。

 岩を超えれば突然に人工的な古びた石階段が伸び、それを上がった先に広がるのは息を呑むほど美しい景色────。