「アイリスさま」


出窓から雨模様の空を眺めていると、レモン色のワンピースの上にレースの羽織がかけられた。


「ありがとうサリー」

「夏季とはいえ、身体は冷やさないようにと、昨日の検診でハリス先生から言われたはずですよ?」

「そうね」


安定期まで、ほんのわずかになったお腹にそっと手を添える。最近ははっきりと動きを感じ取れるまでになってきた。


「色々あったようですが、本日こそは陛下との夕食に行くお約束ですからね?」

「ふふ、わかったわよ」


二日前の夜の出来事を知らないサリーは、かれこれ三週間以上ルイナードと顔を合わせていないことを、ものすごく心配している。

そのため、ここ数日は暇さえあれば、『陛下、陛下――』と耳元で念仏のように唱えられてしまい、今朝、とうとう私のほうが折れてしまったのだ。


ルイナードと夕食。


そう考えてみれば、まだ午前中だというのに、全身がキュゥッと引き締まる。


いつまでも逃げ回るわけにも行かない。

でも、沢山の花を抱えたルイナードを見てしまったら⋯⋯心に宿るのは“憎しみ”ではなく、「どうして?」「なんで?」と疑問一色だった。


彼はその理由を、きちんと教えてくれるだろうか⋯⋯。


――しかし。そう考えていたのも束の間。事件は唐突に訪れた。