「夕子、メイクしてあげるよ」


「えっ?」


「だからメイク!」


そう言うと、同じクラスの市原まどかが私を強引に椅子に座らせた。


「はい、動かない!」


すぐに丸井カンナが私の肩をおさえつける。


「ちょっと、やめてっ」


「なに?私のメイクが下手だっていうわけ?」


まどかが眉を吊り上げる。


とても同じ15歳とは思えない、整った顔立ちだった。


モデルの仕事をしているまどかは、スタイルも飛び抜けていい。


「照れてるだけっしょ?」


丸井カンナはすでにスマホで動画を撮っている。


「と、撮るのはやめて」と私が言うと、カンナは笑みを引っ込めた。


「はっ?あんたに選択肢はないよ」


「そうだよ、夕子のくせして」


まどかが私の頬にファンデーションを叩きつける。


「メイク動画、いま流行ってるからバズるかも」


「アイシャドウは大胆に…」


「口紅は私やらせて!」


「カンナできるの?」


「できるって!」


カンナが、私の唇に口紅を塗りたくった。


どこからともなく聞こえてくる、笑い声。


教室内は今や、私のことを笑う声で溢れかえり──。