私と仁坂が出会ったのは高校2年生の4月7日。
始業式の日、たまたま同じ朝の通学電車に乗っていたのだ。

私は無事に席に座ることが出来てホッとしていた。
電車の揺れと太陽の暖かさでウトウトし始めたとき、目の前の吊革に捕まっている男子高校生が気分悪そうにぐったりといることに気づいた。

「あの、大丈夫・・・ですか?」

余計なお世話かもしれない。

遠慮がちに持ってきていた水道水の入った水筒を差し出した。
その男子高校生は戸惑っている。

そりゃそうだ。
いきなり知らない人に話しかけられて水筒なんか差し出されたら私だって警戒する。

しかも違う高校。

「これ、水道水なんです。私まだ口つけてませんし」

安心させるように蓋を開けて中身を見せると、男子高校生はそれを覗いた。

「・・・どうも」

安全だと判断した男子高校生は私の水筒を恐る恐る受け取った。

「どうぞ、席に座ってください」