ミレイナは元々、アリスタ国の片田舎に住む、何の取り柄もないただの平民だ。
 人と違うことがあるとすれば、日本人であった前世の記憶があることと、ウサギに変身できる獣人であることくらいだ。
 こんな煌びやかな社交の世界は縁がなさすぎて、どうすればいいのかわからなくなる。

 それに、ミレイナが恐縮してしまう理由がもうひとつ。

「ミレイナ。大丈夫か?」

 緊張でかちんこちんに固まるミレイナに、優しく気遣う声がかけられる。ミレイナは自分の隣を見る。

「ええ、大丈夫です。ご心配をおかけして申し訳ございません」
「何かあれば、すぐ俺に言うんだ」
「はい。ありがとうございます」

 ミレイナは曖昧に微笑む。内心では、全く違うことを思いながら。

(なんで私のエスコート相手が、ジェラール陛下なの!?)

 今回の記念祝賀会のような舞踏会の際、女性は男性にエスコートされて参加することが多いとは事前に行儀作法のレッスンで教わっていた。
 しかし、ラルフからは一切ミレイナのエスコート役について話がなかった。だから、ミレイナはきっと自分はエスコート役がいないか、いてもラルフが手配してくれた文官の誰かだろうと思い込んでいた。
 ところがどっこい、先ほどドレスに着替えたミレイナの元に訪れたのは、こともあろうかこの国で最も尊い人物、竜王陛下であるジェラールその人だったのだ!