ここは丘の上だから声を上げても誰にも聞こえない。


電気やガスも止められているし、とても楽しい雰囲気ではなかった。


咲は椅子をひとつ部屋の真ん中に移動させると、足を組んでそこに座った。


長くて真っ直ぐな咲の足が窓から入り込んでいる西日に照らし出されている。


思わず見とれてしまうような足でも、それはあたしにとって自分を踏みつける凶器にしか見えなかった。


そのときだった。


玄関のほうでカタンッと小さな音が聞こえてあたしは振り向いた。


誰かがこちらへ近づいてくる足音が聞こえてくる。


ギッギッと床を踏む足音にあたしは警戒心をあらわにした。


この廃墟は他にも若者たちが入り込んだりしている。


もし他の誰かと鉢合わせをしたらどうするんだろう?


そんな不安を感じているのはあたしだけのようで、咲たち3人は余裕の表情を崩さない。


もしかして、今日ここへ来るのはあたしたちだけじゃないんだろうか?


そう考えたとき、足音がリビングのドアの前で止まった。


すりガラスのドアの向こうに小さな人影が見える。


え、まさか。


そのまさかは当たった。


開かれたドアの向こうにいたのは美緒だったのだ。