「では。実は、氷を輸入したいと考えているのです。オズボーン王国は温暖ですから、この時期、氷は保管したものしかないでしょう。ですが、ブライト王国はいつでも氷を入手することができます。輸送にかかる費用を考えても、この時期は、輸入したほうが安価で氷を手に入れるのではないでしょうか」

「それはそうだろうが、氷など何に使う」

「とりあえずは氷を使ったスイーツでしょうか。でも他にも用途はいろいろありますでしょう?」

「やはり昼間のはお前か」

 オスニエルに突然手を掴まれ、フィオナは動揺する。顔が熱くなっているのがわかって、ドキドキしてくる。

「なっ、手っ」

「今日、お前が広場で露天商の真似事をしているのを見たぞ」

「あれはっ」

「王太子妃が何をしている」

 先ほどから、オスニエルが王太子妃と連呼するのに、フィオナはムッとする。妃として扱わないと最初に言ったのはそちらではないか。

「あれはっ、身分は明かしていません」

「そういう問題じゃない!」

「ちょっとお手伝いをしていただけです。商売として成り立ちそうだし、これからは自分たちでできるよう、援助ができればいいなと」

「なぜお前がそこまでしなきゃならないんだ」

「私の国民だからですよ!」

 フィオナはオスニエルの手をはじいた。

「この国はもう、私の国です。国民が幸せになるように考えて何が悪いのですか」

 予想外の返答に、オスニエルは言葉がない。フィオナは人質のようなものだ。傷つけて泣かせて、国に逃げ帰らせようと企んでいた。
 だが彼女は、勝手に自分の道をこの国で見つけようとしている。

「……もういいです。氷に関しては個人的に手配します」

「おい!」

「商人に交易は認められているのでしょう? であれば、私が援助した商人にもその自由は認められるはずです」