「絶対俺を、美都に近づく悪い虫……いや、それ以下に思われてただろうな~。美都に過保護っていうか。雰囲気とかで、色々ダダ漏れだし」


「色々?」


「そうそう。つまりは、美都に他意があるってこと」


「他意?」



「まあ、黒木のためを思って何も言わないけどさ」


他意、ねぇ。


お嬢様っていう以外に、別の他意なんて思いつかない。


強いていうなら……


「おもちゃとか?」


「は?」


「きっと、私が意地っ張りな女だから、反応とか見て楽しんでるんだよ」


「…………」


「だってそうでしょ?黒木さん、私に可愛いとかよく言うけど、私にその言葉は似合わないよ」




よくよく考えれば、分かることだった。

ずっと不思議に思ってた、あること。



どうして、外での姿と、私と接するときでは口数も、雰囲気も、表情もしぐさも、何もかもが違うのかなって。



元カレのことがあって、結局私は強情っぱりで、男の人から見れば、可愛さの欠片もない女で。


だからきっと、黒木さんの言動すべては、動揺する私を見るのが好きだからに違いないって。


昨日危機管理の話の最中に、私のこと好きとか言ってたし。それもたぶん、動揺させる要素の1つで。


だって、あんなにハイスペックな男の人が、5つも年下の高校生に優しくしてくれるなんて、他に理由が見当たらない。


「黒木さんは、ただのお嬢様の私をからかってるんだよ。もしそうじゃなかったら、今頃黒木さんに彼女がいてもおかしくないじゃない?」


「あぁーうん。ソウデスネ……」



ん?


なんだか紗姫が遠くの方を見ていた気がするけど、どうしたんだろ?


まあ、元々黒木さんに甘えるつもりはさらさらなかったんだし、ちょうどいいや。


昨日もあれから、私が寝つくまでずっと傍にいてくれた黒木さん。



とってもありがたいし、嬉しいんだけど……

正直、緊張するんだよね……


外での他の女の子と接する時のギャップが大きすぎて、私がそんな超絶人気の人の時間を奪っていいのかと思ってしまう。


甘えるのが苦手な私にとって、色々面倒を見てくれるのが、恥ずかしいって思ってしまう。



昨日、完全に優しい黒木さんに、流されてた。


これ以上一緒にいたら、自分がダメになっちゃいそうだし、色んな意味でいつか絶対限界が来ると思う。


だから。


「紗姫、私決めたよ」


「え、なにを?」



「逆に、黒木さんに甘えて甘えて甘えまくって、こんな面倒なやついらねって言われるくらいになるわ!!」



うん、これがいい。

きっとこれが最良の方法だよねっ!!



我ながらバカだと思うし、より高難易度になってしまったけど……


「絶対に成功してみせる」


メラメラと燃える私の横で、



「黒木、今まであんたのことどうとも思ってなかったけど……さすがにこれは同情するわ」



紗姫が黄昏ていたなんて、知るはずもなかった。