「では、先程の話に戻りますが」


「はい……」


黒木さん、めちゃくちゃ嬉しそう……


って言っても、表情はまたクールに戻っちゃったし、雰囲気も。


けど、声だけは少しワントーン上がってる気がする。


もう、なんでもいいや。


ズーンと立ったまま落ち込む私の前で、黒木さんは続ける。


「お嬢様は男という生き物を何も分かっておられません」


「男という、生き物?」


「はい。皇財閥のご令嬢という身分がバレてしまった以上、これから先、どんなゴミ共がお嬢様に近づいてくるかは分かりません」


ゴミ共って……

たまにサラッと毒を吐く黒木さんに苦笑しつつ、ずっと思っていたそれ。


「あっ!!その皇財閥の話……」


「おそらく、私がお話にならなくともお嬢様の耳に入ることになるだろうと思っておりましたので、敢えてお伝えしませんでした」


「そうだったんですか……」


確かに。

私が紗姫から聞かなかったとしても、あれだけ話題になってればなぁ……


「つい昨日財閥のご令嬢であることを知り、急に転校となりましたのに、これ以上一度に負担をかけるのは良くないのでは、と私が判断致しました」


申し訳ございません。


そう言うと、胸に手を当てて恭しく礼をする。


「いっ、いえ!!
そんな風に思って頂いただけで十分です。ありがとうございます」


シュンとしているように見えて慌ててお礼を言えば、表情が少し和らぐ。


「お嬢様は、本当にお優しいですね。可愛いのはもちろん、こんなに気遣っていただけるなんて、私はこれ以上にない幸せ者です」


「ど、どうも……」


調子が狂う……


目を細めてあまりにも嬉しそうにするから、ふいっと顔を逸らす。


目尻が下がって、優しさが滲み出るその瞳に、胸がトクンと音を立てた。


「ですが、時にそのお嬢様の優しさは、男がつけ入る隙となります」


「す、隙ですか?」


「そうです。例えば………」