署内、署長室にて。





「では、優木はこのまま裁きを受けさせると?」





署長である瀬戸は窓辺に立ちながら室内にいる人物に声をかける。
その人物は私服姿で署長室にあるソファーに腰掛けており、足を組んでゆったりしていた。




「うん。あの子は貧しかった子供の頃の影響だろうけど、何でもかんでも食べようとするからね。少し分別を覚えさせるには此処は丁度良い」





「分かりました。あと、公安の氷室一巳には娘の方から貴方からの言伝てを伝えました」





「そう。彼は知りすぎてるけど、消すには惜しい。それに、彼が僕らを探るのは仕事だからね」






「ですが、公安は危険です。あと、あの二人も……」






瀬戸の脳裏には三人の刑事が浮かんでいる。
一人は公安の氷室一巳。
あとの二人は瀬戸の目の前の人物のお気に入りとされる捜査一課の刑事。
一人は官房長官の息子という立場を隠して刑事になった浅川一颯。
もう一人は父の仇と七つの大罪を追う女刑事、京汐里。
三人とも、優秀な刑事と言われている。





そんな三人を目の前の人物は静観しているという。
この三人がいれば、自身の計画は阻止されてしまう可能性があるというのに。
だが、瀬戸は口にしようとしたことを飲み込んだ。
目の前の人物が殺気を放っているからだ。





「僕の決めたことに文句があるの?」





「い、いえ……」





「君が僕を心配してくれているのは分かってる。でも、大丈夫だよ。そろそろ本腰を入れるから」






「畏まりました。この瀬戸、神室様の御心のままに使命を遂行致します」





瀬戸が深く頭を下げれば、目の前の人物――神室は穏やかに笑う。
神室は瀬戸を駒としか見ていない。
いや、彼だけではない。
七人いる罪人や世の中の人物は全て駒なのだ。
己の計画を遂行するための。





「さて、次はどうしようかな……」





神室はソファーの肘掛けに肘を置くと、目を細めた。
次の罪人は誰にするか……。
決まったとき、罪人が動き出す。
罪人はあと、四人もいるのだ。




瀬戸は刑事として七つの大罪を追う息子の姿を思い浮かべていた。
七つの大罪の全てが明らかになったとき、息子は絶望するだろう。
何せ、正義を貫いていると思っていた父が《こんな》ことをしているのだから――。







「済まないな、司……」





瀬戸は何も知らない愛息へ向けてそう呟く。
父が《こんな》ことをしていても、あの二人なら息子を絶望の縁から引き上げてくれる。
だから、あの二人に息子の教育係を任せたのだ。
神室が気に入っているあの二人なら大丈夫だ、――と。