「エスターさん、本当に城を出ていくつもりなのかい?」


 ベルナルド様が倒れた翌日。すっかり暴風雨が過ぎ去った古城の薬室で、ドミニコラさんが問いかけた。

 たった一晩で机に積み上げられた本の整理を手伝いながら苦笑する。


「はい。もともとドミニコラさんが帰ってくるまでの期限付きでしたし、私は本当の婚約者ではありませんから」


 症状が落ち着いた後、ベルナルド様は全てを説明したらしく、偽りの関係を理解したドミニコラさんは複雑な表情をしていた。

 今語った通り、ふたりは本物の恋人ではない。

 それに、カティアの恨みを買って薬室を荒らされてしまったのは私の責任だ。優しい人たちに甘えて居座るわけにはいかないだろう。


「主に進言しようか?君は薬師としての腕もある優秀な助手だし、片付けが苦手な僕にとっては貴重な人材なんだけどな」

「そばでお勉強をさせてもらえるのはありがたいですが、これ以上迷惑をかけるわけにはいきません」