俺をヒトだと言ってくれた彼女は、大切に、傷ひとつなく手放したいんだ。

 悪女と嫌われ、冤罪を被ったつらい過去のせいで素直になれないエスターが、「ラヴィス」と呼んで笑顔を見せるのが不思議だった。

 強気な顔で心を開かないくせして、人々から畏怖される俺の前でだけ安心しきった顔をする、おかしなやつ。

 彼女が庭に来るたびに、なぜか心の奥が熱い気がした。

 その感情の正体が知りたくて、舞踏会に連れて行く口実を取り付けたり、部屋に呼んだりして共に過ごす時間を作った。

 ヒトの姿では警戒されたがヴォルランの姿にはどうも弱いらしく、尻尾で遊んでやると喜んだ。

 呪われた血のせいで恋愛どころか女にも興味がなかったはずなのに、冷たい美貌に隠された素直な一面を知り、心が揺れた。

 彼女は、俺が今まで出会ってきたどの人間とも違う。

 いつも気を張っている彼女の素は、想像よりもずっと愛らしい。