薬師の仕事を終えて自室でゆっくり過ごそうとした矢先、伝言が届く。

 部屋?それって、ベルナルド様の自室という意味?

 陛下の自室は古城の北塔にあり、使用人の居住スペースや謁見の間とは離れていた。めったに人が立ち入らないどころか、本人以外の出入りを禁じられている。

 わざわざ呼び出しなんて、今までなかったのに。どういうつもり?

 恐る恐る北塔に向かい、大きな扉の前に立った。金の装飾が施された深紅の扉に緊張感が高まる。


「ベルナルド様。エスターです。お呼びでしょうか」

「入れ」


 ノックをして声をかけると、短い返答がきた。低いトーンの命令に喉からツバを飲み込む音が鳴る。

 部屋の中はゴシック風の綺麗な家具が並んでいた。黒やシルバーのものが多く、どれもエレガントな印象だ。

 薄暗い部屋にキャンドルデザインのランプが灯り、古城の妖しくも優雅な雰囲気にうっとりする。