ラヴィスは気まぐれにしか庭に来ないけれど、決して話の途中では立ち去らなかった。しかし、目を閉じて眠る態度から興味もないとわかるのが面白い。


「やっぱり良い毛並みね。モフモフで気持ちいい」


 頭をなでて、横たわるラヴィスに体を預けると、上質な白い毛に包まれた。尻尾が弱いのか触ると怒られるものの、こうやって抱きつくのは許してくれる。

 拍動する心臓の音に落ち着く。それに、いい匂い。花でも石けんでもないみたいだけど、なんの香りだろう。

 薬師として成分が気になっていたそのとき、背後で物が落ちる音がした。


「うわ、まずい」


 はっとして顔をあげると、視界にひとりの男性が映る。

 すらりと背が高く、毛先を遊ばせた黒い短髪を耳にかけ、女性に好かれそうな整った容姿だ。腰には剣を携えており、エピナント国の紋章が入った制服を着ている。王都の騎士だろうか。

 荷物の入ったカバンを手から滑らせたようで、慌てて拾った彼は話しだす。