なんとか振り切って植物園のバックヤードに逃げ込むと、深いため息がもれた。

 このやりとりは日常茶飯事で、息をつく暇もない。心に暗い気持ちを抱えて更衣室に入ると、数人の女性たちがロッカーに集まっていた。


「そこ、私のロッカーよね?なにかご用?」


 背後から声をかけると、彼女らはびくりと震える。


「あら、エスターさん。たまたま間違えて開けてしまっただけですわ。そんなに怖い顔をしないでください」

「べつに責めているわけじゃないわ。誰にでもうっかりはあるもの」

「怒っていないのならよかった。ほら、エスターさんはお顔が綺麗だから……どうしてもキツく聞こえてしまって。悪く思わないでね」


 そそくさと更衣室を出て行く背中を横目で見送る。閉まった扉の向こうから、毒づいた声が聞こえた。


「あぁ、怖い。少し顔がいいからっていつも強気で、にこりともしない」

「あの美貌でグレイソンをたぶらかしているんでしょう?一途なカティアがかわいそう。エスターは悪女そのものよ」