「エスター、君を本気で愛しているんだ。そろそろ俺の気持ちに応える気になってくれたか?」

「いい加減にして、グレイソン。恋愛対象には見れないと何度も言ったでしょう?」


 クセのある茶髪に、高貴な服を着こなした背の高い男性が目の前に迫る。

 グレイソンという名の彼は大きな植物園を経営する地主の息子で、いうなればお金持ちのボンボンだ。こうして、毎日のように口説いてくる。

 本当に、迷惑。

 下心満載な胸板を軽く押して制すと、私は足早に緑豊かな温室を出た。


「待ってくれよ、エスター。つれないところも素敵だね。町一番の美人の君が、薬師の仕事ばかりで恋愛に興味がないのはわかっている。でも、俺たちはうまくいくと思うんだ」

「冗談はやめて。第一、あなたには婚約者がいるじゃない。ほら、植物園の門の前に来ているわよ」

「げっ」


 目線で指してやると、グレイソンが低くうなった。

 その先に立っていた小柄な女性は、クリーム色の髪をハーフアップでまとめた精巧な人形のように可愛らしいカティアだ。