「っ!?」



――…その時だった。


パトカーや消防車とは異なる、むしろそれらより存在感を感じる轟音のサイレンが鳴り響いたのだ。

数分前に数々のネオンに彩られたはずの建物たちは一斉に光を失い、すべて軒先の赤いランプだけが点灯し始めた。



外灯も、お店やビル前の光も、全部が赤、赤、赤。



「…チッ、早かったな」

「な、なに…!?何がどうなって…っ」

「おいで」

「…っ、え、」



異様な街の灯り。どこを見回しても赤しか灯ってない。

…黒い街並みが赤に反射して、身の毛がよだつ不気味さを伴っている。



「俺を信じてくれるなら、一緒においで。貴女を助けると約束する」



一目散に走り出す人々。止まっているのはわたしたちだけ。

…震える体。さっき以上の恐怖。濁流が迫りくるような赤の景色。



「信じて、って…」

「もう時間がない。駅も店も閉まった」

「っ!?」


「この街で迎える最期って、貴女が考える以上にずっと残酷で、ずっと容赦が無いんだよ。

――…それでもいいならどうぞ犠牲になって。独りで身ぐるみはがされて、苦しみながら、ね」



――…“朱里、大好きよ”

――…“朱里の幸せを、ずっと祈っているからね”



「…さぁ、どうする?」



…お母さん。

大好きな、大好きな…お母さん。



「っ――…。

…一緒に、連れて行ってください…!」



わたしはさっき、彼に命を預けると覚悟を決めた。

…助けるというのは彼の嘘かもしれない。それならそれで、もう何だっていい。



「――…あぁ。いい子だ」



繋がれた手に、命の行方を、託すよ――…。