ロットがそんな大事な研究資料に傷を付けるようなことはまず有り得ない。

この書物の書き手が意図的に切り取ったとしか思えなかった。

「この頁に至るまではあたし達が知っている言い伝えの通り、地上からここへとやって来た理由が記されているの。ただ少しだけ違うのは、ここはドラゴンを守るために作られた地であったということよ」

「地上で生活する環境がなかったのは、僕達がドラゴン・ブラットを持つ者だったからなんだ」

「つまり?」

「ドラゴンとあたし達は上の世界で上手く生き抜いていけなかった。差別や国という大きな権力があたし達一族を脅かしていたから」

「そんな……」

愕然とする余り言葉が上手く出てこなかったが、どこかでその事実をイリア自身で見つけていたような気がした。

あの森の事を誰かに話したらどうなるか、薬草になると分かれば乱獲する輩も出てくるのは容易に想像できる事だった。

「でも、こうしてイリアがここに来てくれたお陰で地上にも住む世界があるってことが知れたし、あたしはすごく今が楽しいから」

「僕も」

地上の人間が絶対的にドラゴン達に恐怖を与えるものでは無いからと、安心させるようなその言葉はイリアの心を突き動かした。