「あ、そういえば。お母さんのこと教えてくれなかったですよね?根にもってるんですけどー。」

「急に分かったくらいの方が、案外上手くいっただろ?きっと知ってたら準備しようとしてガチガチに......って、何急に。」

「デザート、もう1つ頼んでいいですか?」

「そういうことかよ。」

 そうして、追加のデザートを注文する私を見て、呆れたように笑う彼。ここぞとばかりに甘えながら、今だけは妻のような扱いを存分に味わいたかった。


「そんだけ美味しそうに食べてくれると、ご馳走のしがいがあるよ。」

「こういうお礼なら、いつでも大歓迎です。」

 そう言いながら、私は本物のカップルのような気分でいた。

 始めは、父への意地だけで決めた結婚。だけど、こうして過ごしていると、千秋さんとなら悪いものではなかったと、そう感じられるようになった。


 その夜の、帰りの車の中。運転代行を呼び、私たちは後ろの席に並んで帰る。

 私は、なんとなくカップル気分のままだった。

 しかし、あんなに素敵な時間を一緒に過ごしても、結局繋がっているシートには妙な空間が生まれている。


 近いけど、遠い。それが、他人の距離。夫婦でも、偽りの距離。

 今の私たちの距離は、変わらず遠いままだった。