恋愛指南書に書かれた内容と睨めっこしながら、イリアはその日の夜もカデアトへと足を向け薬作りと研究にその身を注いでいた。

ーーチラ見に上目遣い……そんなのが好意になっていくんだ。男を落とせなんて言われて無理かと思ってたけど、私にもできそう?

ふと薬草を詰める小瓶に自分の目が映り込み、チラチラと小瓶を見たりと不自然な動きを繰り広げた。だが、漂う薬草のその香りにイリアの瞳は研究というものに吸い込まれていく。

日中はアゼッタと共に貴族令嬢となって街へ出歩いたイリアだったが、カデアトに足を踏み入れた彼女の顔は幼心溢れるような瞳で研究に取り組んでいく。

手元に並べられた森の薬草達は研究熱心なイリアによって薬へと生まれ変わり、ドラゴン達の謎の流行病を瞬く間に鎮静していった。

得られた実験結果はヒューリの暮らす村々に広がっていき、二人が出会った時と同様イリアは女神の手を授かった者として慕われるようになった。

人への影響はまだ実験出来ていないからと村の人々には断っていたものの、一人また一人と病に苦しむ者達が手を上げて率先して実験に付き合ってくれた。そのお陰でゆっくりとではあるが、薬の人に与える効果がデータが収集できるようになってきた。

自分の好きで始めた実験でこれ程の人の苦しみを取り除く事ができたことが何よりも嬉しく、少しだけ誇らしかった。

「これでよし……っと」

出来上がった薬を瓶に詰めて小屋の戸棚に並べると、外から大きな足音がこちらに近づくように聞こえてきた。