失敗したとしてもめげることだけはしない、エリーに言った通り嫁ぎ先をしっかりと見つけるために指南書のページを捲った。

書かれた内容が分からなければ隣にいるアゼッタという先生に、徹底的に質問をして理解していく。

今まで気にしていなかった恋愛というものを無知ながらも、頑張ってやってやろうという気持ちだけは強かったイリアは、指南書の半分を読み終わった所で、今度はアゼッタからもう一冊の本を手渡された。

「これは?」

「この本は逆に男性側が女性にアプローチするための方法が書かれた本です。どのようなシチュエーションが一番ときめくのかが客観的にみて分かりやすいかと思ってお持ちしました」

「なるほど!両方分かっていれば恋に落ちやすくなる戦法ね……!」

受け取った本を開きひたすら本を読み込んでいくと、いつの間にか日が傾き始め空が茜色に染まっていく。使用人が馬車を手配してきてくれ、馬車へと乗り込むが無性に街から離れるのが寂しく思えた。

それくらい夢中になれるものがここにはあったのだ。

研究しかないと思っていたイリアだったが、外の世界を触れてその楽しさや幸せを感じ取った何よりの証だった。

馬車に揺られながらアゼッタと共に今日の出来事を振り返るように話していると、馬車の中ではイリアの知らぬ間にガールズトークの花が開いていた。

「お姉様」

屋敷に着く手前、アゼッタはポケットから小袋に包まれた何かをイリアに手渡した。小さく首を傾げていると、開けるように催促されその場でそっと中を確認する。手の平の上に落ちたのは、薔薇の形をしたイリアの髪と同じオールドローズ色の可愛らしいブローチだった。

「お守りです。お姉様に素敵な恋が実るようにおまじないも込めております」

「……っ!本当にありがとう、アゼッタ」

窓から入ってくる夕日の光を吸い込むようにブローチが一つ瞬くと、イリアの胸に暖かい気持ちが滲んだのだった。