「大丈夫よ。この人に怪我はないみたいだから。ただ気を失っているだけ」

「キュー!」

ドラゴンは嬉しそうに鳴くと、処置したばかりの翼を大きく羽ばたかせて立ち上がった。

「ダメよ!まだ傷は塞がってーーる?!」

つい先程薬を塗ったばかりの翼の傷は、見事に綺麗に消えていた。

何が起こっているのか確かめようと、再び傷があった翼の方へと向かおうとしたその時だった。

今にも身体が勝手に宙に舞いそうな程の強い風が、イリアの頭上で吹き荒れていたのだ。

「きゃっ…!!」

あまりの風の強さに反射的に目を閉じたイリアを襲ったのは、体が宙に浮き風を切る感覚だった。

地面に叩きつけられるという恐怖心は、何かに掴まれているという謎の安心によりなんとか湧いて出てこなかった。

何が起こっているのかと吹き荒れる風の中、無理やり目を開けたイリアの視界に飛び込んできたのは、口を大きく開けたようなぽっかりと空いた深い深い地の底へと続く縦穴。

「ちょっと待ってっ!!」

首を可動域の範囲内で必死に動かして状況を掴んだイリアだったが、何故かドラゴンの足によって掴まえられ死の縦穴に向かって急降下していたのだった。