「晴日、ちゃんと話そう。」

「話すって何を?」

「だから、その.....」

「桜と結婚すること?もう知ってるから、離して。」


 何もかもどうでもよくなり、そんな言い方しかできなかった。


 優しくて綺麗な、自慢の姉の結婚式。

 3つ違いの私たちは、小さい頃から姉妹仲も良く、本当なら心の底から喜んで祝福していたはずだった。

 その相手が、矢島さんでなければ――。


 ずっと隠されていた。

 結婚することさえギリギリまで知らされず、やっと紹介してくれたのは、当日の今日。

 姉と結婚する相手が、自分の恋人だったなんて衝撃の事実。知ったのは、まさに今さっき。控え室に、彼が花婿の姿で現れた時だった。


「私と付き合ってる間、どんな気持ちだった?前から決まってたんでしょ。どうして黙ってたの?」


 耐えきれず、私は振り返り様に問い詰める。

 ふと彼を見た時、せっかくセットされていたはずの黒髪が、乱れて寝癖のように跳ねていた。私を急いで追いかけてきた様子は感じながらも、我慢の限界だった。


「私のこと、ずっと騙してたの?」

「ちゃんと話そう。式が終わったら、もう一度ちゃんと.....」

 私をなだめるように、なるべく優しい口調でそう言う彼。しかし、ぱきっと決めたタキシードが視界に入るたび、平静ではいられなかった。