「平岡彰っていえばうちの学校始まって以来の天才だって有名じゃない」
「……そうなの?」
「ほら、入学式の時に新入生代表の挨拶ってあるでしょ。あれ、式の何日か前に急遽代表生徒が変わったって騒ぎになったの覚えてない?」
「ああ、それはちょっと覚えてるかも」
「あれね、平岡彰が二次募集の試験で満点合格したからなんだって」
私は目を見開いた。
「…………マジ?」
「マジマジ。リアルガチ」
満点って……答案用紙に丸しかないってことだよね? 一つのミスもないってことだよね? うわぁ、そんなのあり得ない。そりゃ代表挨拶も交代せざるを得ないよなぁ。壇上に立っていた姿はなんとなくだが記憶に残っている。でもまさかあれが平岡くんだったとは……。
というか、彼がそんなにスゴい人だったなんて今までまったく知らなかった。てっきりイケメンだから騒がれてるとばかり思っていた。
「まぁ確かに顔が良いのも騒がれてる理由のひとつなんだけどね」
なんだか心を読まれた気がする。エスパー由香。語呂は良い。
「でもさ、そんなに頭良いのに何でうちの高校に来たの? しかも二次募集ででしょ?」
「理由は知らないわよ。でも本当は県外の超有名進学校に推薦で決まってたらしいんだけど、そっち蹴ってわざわざうちの学校選んだって話だよ」
「な……何その超勿体ない話」
「本当にそう。天才の考える事ってまったく理解出来ないわ」
そう言って、由香はスラスラとルーズリーフに文字を書き込んでいく。
私はその様子をぼんやりと眺めていた。それにしても、有名進学校の推薦を断ってこんな普通の公立高校に、しかも落ちたわけでもないのに二次募集で入ってくるなんて…………
「平岡くんって馬鹿なの?」
「話聞いてた? アンタなんか足元にも及ばないわよ」
「デスヨネー」
気持ち良いほどの切れ味で私の意見は切り捨てられた。
「まっ。こういう時こそ有効に使いなさいよ。偽物とはいえ彰サマはアンタの彼氏なんだからさ」
由香の言葉に、心の天秤がぐらぐらと揺れ動く。