「絆、大丈夫よ。志勇も人のこと言えないから」




そんな絆に、母さんはわざと間を通って場を鎮めた。

母さんはいつも中立な立場で家族全員の味方で、そして荒瀬組の理想の姐さんだった。

俺はいつの間にか自分より小さくなった母さんの後ろをついていった。



「母さん、ばあちゃんから聞いたんだけど交際0日で同棲したってマジ?」

「うーん、ちょっと語弊があるけどあながち間違ってないかなあ」

「うへぇ、大胆だな父さん。さすが目的のために手段を選ばない男。
まあ母さんほどの美人となると父さんも必死だよな」

「あら、お上手ね刹那。
あなたも早くそんな人に出会えたらいいね」

「え……俺?俺はまだいいよ。本気の恋愛ってめんどくさそう」



母さんの発言に少々面を食らったが、その微笑の意味を知って笑った。



「それで?実の母におべっかを使うってことは、おじいちゃんの家に行きたいの?」

「やだなあ母さん。母さんが美人だってことは息子の俺から見てもよく分かるよ。
まあお願いごとがあるのは確かだけどさ。
車出してほしいんだ、じいちゃん家まで」



いとも簡単に息子の考えを見通した母さんは、ちょっと困ったような笑顔を向けた。



「また行くの?頻繁に行って困らないかな」

「だってじいちゃんが来いって言うんだから行くしかない。
ちょっと息抜きしたいし」



すると、部屋のドア付近から、ノワールを抱いた絆にじっと見つめられていることに気がついた。

どうやら聞き耳を立てていたようだ。



「なに、絆も来る?」

「いかねえよ」

「だよねぇ、絆とじいちゃんどっか似てるから反りが合わないもんねぇ」

「こら、揚げ足とらない」

「はーい、じゃあね絆。安心してよ、俺はお前の揚げ足はとっても出し抜こうなんて考えてないから。
荒瀬組はお前のものだよ」



そう伝えたものの、絆には疑心暗鬼の目を向けられる。

どんだけ信用ないんだよ、と心の内で呟いた。

その後すぐに組員に車を出してもらい、先代が住まう屋敷にたどり着いた。