検査入院の日取りを決めて母と病院を後にした。
正直先生の話なんかまったく頭に入らなかった。
受付で会計を済ませて外へ出る。自動ドアが開くとそれまで暖房で守られていて、感じていなかった冷たい風が吹き込んできて身震いした。
冬の外気は乾いていて、こんな表現があっているのかはわからないれど、暗い。
上を見上げると、不機嫌な灰色で雨でも降り出しそう。
そんなことをぼんやりと考えながら車に乗り込んだ。
終始無言の車内。流れていく景色に目線を投じながら、ぐるぐると先生の言葉たちを何度もリフレインさせていた。
……私、長く、生きられないかもしれない?
不思議。
悲しいのに。辛いのに。苦しいのに。
涙が、出ないの。
ただ、彼方に会いたいと思った。
だけど会ったところで、言えるわけない。
私、ガンなんだよ、だなんて……。
彼方は優しいから、きっと自分のことのように傷つくだろう。
自惚れなんかじゃない。絶対に悲しませてしまう。その自信がある。
私たちはもう、ただの同級生なんかじゃない。
日が落ちて、夜になる。町中がイルミネーションで煌びやかに光出す。白んだ空には星が微かに見える。
こんな日になるはずじゃなかったのに、な……。
「お母さん、帰ったら美味しい料理作るからね」
「うん」
「ケーキもあるよ」
「うん」
「プレゼントだって」
「うん」
いつもと変わらないように、明るく、元気にって必死に振る舞っているのが伝わってくる。だから、私も頑張って声を震わせないように努めた。
……私は、もう、私じゃないのかもしれない。
この病気だと知る前の自分には戻れないのかもしれない。
崩れたのは私の心だけじゃないのかもしれない。
頑張らないと笑えないのかな。普通になれないのかな。
そんなの、嫌だな……。
みんなが病気のことを知ったらきっと、可哀想だと心の中で悲しみの涙を浮かべながら私にはそのことを隠し、笑いかけるのだろう。
──彼方も?