私は仕事のためにこの店を訪れた。

派手なドレスを着て、濃いメイクをして、いつもと違う自分を演じて。

そんな変装をしてまで欲しいものがあるから。



私はテーブル席で談笑する、2人組の男を見た。

私は読唇術を心得ているから、だいたいの言葉は理解できる。

……貸し出して、やろうか、あの女……夜、激しいぜ……はあ?

しかし、ターゲットの持ち出す話のネタは下ネタのオンパレードで、さすがに飽きてきた。

腕時計の針は深夜2時を指している。さっさと勘定を済ませて帰ろうかな。

脚の高いイスから降りるため、床に足をつけようとしたその時だ。




「……隣、いいか?」




凛として、(つや)のある男の声が、隣から発せられた。