「美晴ちゃん……!」



抱きつこうとしたとき、わたしのポケットから何かが落ちた。



それは男物のネクタイだった。




「え、誰の……?」



こわごわと拾い上げる。

女子はリボンだから違うし、この朱色はわたしたちと同じ2年生の印。





…………ああ……



ぼやぼやと中途半端に戻ってくる記憶が憎い。

このまま忘れていられたらよかったのに。



よみがえるのは、ついさっき。

わたしが校門まえで検査用紙に記入しているときのこと。


違反だらけの項目に気を取られていたけれど……


ハギくんがなにやらわたしのポケットに詰め込んでいた。




それだ。

それが、これだ。



ネクタイから顔をあげると美晴ちゃんはすでにけらけら笑っていて、



「ビンゴ!」


とわたしに勢いよく指を向けたのだった。




もうすぐ1限目がはじまる。



……終わったら返しに行こう。



まだ1日は始まったばかりだというのに、今すぐ家に帰りたい気持ちになった。