また、じわりと嬉しさが心を侵食する。
ゆるっと頬がゆるむのが自分でもわかった。
「じゃあ来てね、待ってるね!」
「うん」
しばらくして、お開きの時間になった。
あれだけ “出る” とうわさされている神社での肝試しだったけれど、なにも起こらないまま無事に幕を閉じる────と思いきや。
「まじだって!マジで見たんだよ!ちっちゃい女の子がこっちをじーっと見てきたんだって!」
いちばん最後に集合場所に帰ってきた、山田くん。顔面蒼白で駆けてきた。
「見間違えたんじゃねーの?」
「ほんとだって!声も聞いたんだからな!」
結局ひとりで回ることになった山田くん。
彼がいうにはほんとうに “霊” はいた、らしい。
誰にも信じてもらえず、山田くんはべそべそと半泣きしている。
結局、今回の肝試しでは山田くんだけが遭遇したみたい。
みんなで山田くんを元気づけながら帰宅することになった。
「元気出せってー」
「無事に帰ってこれたんだからいいじゃん」
「よくねえよ!」
「ほら落ち着けよ」
そして最終的に山田くんの放った渾身のセリフ。
「俺はぜってー朝陽をゆるさないからな!放っていきやがって!」
「いや翼、大丈夫だって言ってたじゃん」
「うっ」
さすがに山田くんが気の毒で、心のなかでごめんね、と真剣に謝っておいた。でも、山田くんのおかげでいい思いしちゃったかもしれない。
そんなこんなで、クラスのみんなで過ごした夏の一夜は騒がしく幕を閉じたのだった。