わたしは、小学生だった時に母を亡くしている。
…それから父と2人暮らしで、それなりの良好な距離を保って暮らしてきた、はずだった。
父が再婚相手を連れてくる、昨年までは。
「朱里ちゃんおかえりなさい、ご飯食べてくるって聞いたんだけど、せっかくだからと思って朱里ちゃんの分も作ったの」
「…そう、ですか」
「今あたためるから、あの子のこと抱っこして見ていてくれない?お願いね」
父はわたしに相談もなく、「朱里となら絶対に仲良くやっていけると思うから」と身勝手に再婚を決めた。…それで現れたのが絵美香さんだった。
ふたりはわたしの知らない話で笑い合った。わたしの知らない家庭を築いていった。
わたしを置いてきぼりにしたまま、弟という家族をつくった。
「あーうー」
生後数か月の弟。
今はテレビから流れる音楽に反応しているのか、手を動かして声を出している。
(…抱っこ、慎重にしないと…)
おそるおそる、包み込むように手を伸ばした。
…触れることすら緊張するな、泣かれたりしないといいな……、
「っちょっと朱里ちゃん!!ちゃんと首支えてよ!!!」