振り返って彼方を見て、また桜の木を見上げる。


「うん」


今日卒業を迎えた部長たち3年生のことをこの桜の木の下で待つと野球部のみんなで決めていた。


部長は県内でトップを争う野球部がある高校へと特待生として進路を決めた。兄弟揃って野球の才に愛されているということは、この一年で身をもって知った。


部長のポジションは扇の要、キャッチャーだ。部長がキャッチャーで大きな声をだながら、指示を出す安心感は絶大だった。


彼がそこに立っているだけで勝てる。そんな安心感。


それに名物だった兄弟バッテーリーがもう見られないというのはすこし寂しい。
さすがは兄弟といったふうに、ふたりの息はピッタリだったし。


部長のサインに彼方が首を縦に振らずに喧嘩をしている姿も幾度と見たけれど、それはそれで見ていて退屈しなかった。


ぞろぞろと野球部の面々が集まり出して私たちは先輩たちが出てくるのを引き続き待った。


そして昇降口付近が急に騒がしくなる。三年生たちが降りてきたらしい。
不意に私の頭の上に誰かの手が乗る。振り返ると青葉先輩がいた。


「……いきなりなんなんですか」

「いや、遥香ちゃんはいつまで経ってもちっちゃいなと思って」

「喧嘩売ってます?」


ジト目で軽く睨むと、先輩はおかしそうに笑った。だけどその顔が少しだけひきつって見えたのは気のせいなのだろうか。


青葉先輩も部長たち三年生がいなくなるのは寂しいのかもしれない。
それに私たちとは違って責任も感じているから、顔が少しこわばっているのかも。


陸都くんから部長を引き継いだのは、青葉先輩だったから。
部長と高谷先生、ふたりで話し合って決めたことらしいが、ちょっと意外だった。


たしかに青葉先輩はあの雨の日の一件以来野球に対する姿勢が良くなった。一生懸命で、真剣なのは伝わった。


それでもチームを率いる人として、存在感があったかどうかは肯定出来ない。