今私が一番大切で、永遠に続けって強く強く祈るのは、彼方と野球をする時間なんだよ。


「それなのに彼方からそんなこといわれるなんて心外」

「……ごめん」


珍しくしゅんとして、謝る彼方があまりに素直だから私が悪いことをした気分になる。


怒りたいのに、怒りきれない。


「俺もお前と野球するのすっげぇ楽しい」

「うん」

「今さえ楽しければいいと思ってた俺に将来の夢をくれたのもお前だ」

「うん」


去年の夏、私は夢を抱いた。そして同時に叶わないことを知った。


──キラキラした甲子園の舞台に女の私は立てない。チャンスすらない。
その現実があまりに悔しくて、苦しくて。
一瞬だけ、女の子で生まれてきたことを後悔した。


「俺はぜってぇに遥香と一緒に甲子園にいく」

「一緒に?」

「俺たちこんなに一緒にいて、ずっと楽しくて、居心地いいのに……運命共同体と思わねえ?」


彼方らしくない言葉選びに驚く。だけど彼方は一ミリも恥じることなく私の目を真っ直ぐに見つめるものだから、私も彼方の瞳から目線を外すことができない。


そして、噛み締めるように彼方の言葉を反芻する。


運命……共同体?


「俺がいるところには必ずお前がいるし、お前がいるところには絶対に俺がいる」

「……っ……」

「だから俺が甲子園にいくってことは、遥香も甲子園にいくってことだ」


なんて子供っぽい考えなのだろう。
いや、私たちは子供だ。だから、それでいいのかもしれない。


12歳の私たちが描いた夢を、ずっと壊れないように、失くさないように大切にもっていよう。


嬉しくて、涙がほろりこぼれ落ちそうになったのは我慢して、笑った。


「……バカみたいっ」

「バカでいいよ、べつに」


だったら私はずっと彼方と一緒にいたい。
一番近くで、特等席で、彼方の夢が叶う瞬間を見届ける。


……大好きな、君のとなりで。


数日後、ジメジメとした梅雨がようやく明け、季節は夏へと急加速していき、私たちの春は終わりを告げた。