まわりのみんなに悟られないように、ひとり、葛藤していると、篠宮くんが私に淡く微笑みかけたように見えた。
ええっ。
私もここはなにか反応を返すべきなのかな、なんてドギマギしたそのとき。
「朝陽! 電子辞書忘れてきちゃったから貸してくれない?」
私のちょうどうしろ、扉の方から篠宮くんを呼ぶ声がした。
思わず振り返ると、そこにいたのは、麗しきみなみちゃん。
ちなみにみなみちゃんは、隣のクラスだ。
「また忘れたのかよ」
「ごめんってば」
呆れたように笑う、篠宮くん。
そっか、篠宮くんはべつに私を見ていたわけじゃなくて、扉の方に現れたみなみちゃんのことを……。
そりゃあそうだよね。
うんうん、とひとり納得する。
少し拍子抜けした────がっかりしたのは、きっと気のせい。
ううん、きっと、じゃなくて絶対。
だって、きみと私は果てしなく遠い。
それでいいのだ。
太陽は触れられない距離にあるからこそ、
太陽なのだから。