サマラが前世の記憶を取り戻したのは今から三秒ほど前。五年ぶりに父の顔を見た瞬間だった。夜色の髪と月色の目。そして王国で唯一の魔公爵家の証である妖精と杖の家紋を見たとき、サマラは一瞬で自分の前世が『佐藤由香』という超平凡な二十五歳の日本人だったことを思い出したのだった。

佐藤由香は乙女ゲームが大好きだった。中学生の頃からドハマりし、クリアした乙女ゲームの数は三桁に昇る。そんな中でも特にハマったのが、三ヶ月前に発売された『魔法の国の恋人』というファンタジーの世界を舞台にした乙女ゲームだった。

大人気のイラストレーターがキャラデザインを手掛けたということで発売前から話題性の高かったそれは、発売後にさらに話題を呼んだ。

まず攻略対象キャラの年齢と属性が幅広いことが注目を浴びた。公式発表されている攻略対象は五人。魔公爵ディー・三十六歳。剣士カレオ・三十三歳。神官シャーベリン・二十五歳。王太子バレアン・十八歳。王子ホプロン・十五歳。
主人公が十六歳であることを考えると、ディーとの年齢差は二十歳である。

しかもディーは攻略対象内で唯一の子持ちだ。さらにその子供が主人公に意地悪をする悪役令嬢・サマラだというのだから、これにはユーザーの多くがひっくり返った。
『悪役令嬢の父親とかありえない~』と悲鳴をあげるユーザーがいる一方で、父性に恋焦がれるおじさま好きのユーザーの絶大な人気も集めたのだった。
ちなみにディーの妻は遥か昔に他の男と駆け落ちして家を出てしまっているので、彼は自由恋愛の出来る身である。

そしてまた別の話題として盛り上がったのが、隠しキャラを出現させる難易度の高さだった。