私は腕の点滴を外すと、静かに着替えてそっと病院を抜け出した。

青白い光につつまれる街は、僅かに風が冷たくて、一瞬ぶるっと寒気が走った。

自分を抱きしめるようにして、立ち止まる。

もうペンションにも戻れない。

そっとおなかに手を当てて、赤ちゃんに相談する。

何処へ行こうか、この子と一緒に…。


病院に背をむけ、ペンションとは逆の方向へと向かおうとしたときだった。


「待てよ亜里沙!」


忘れようとしても決して忘れる事の出来ない声が聞こえた。

夢かもしれないと思った。

振り返るときっと誰もいなくて、ただの空耳だったと苦笑するだけだと思った。



だけど…


恐る恐る振り返ったその先には、確かに誰よりも愛しい人が立っていた。



「た…くみ?」



身体が…動かなかった。