「鈴香」



ふと、沖田さんがボクを呼んだ。



そちらに顔を向けると



目の前が真っ暗になった。



でもすぐにわかった。



沖田さんに抱きしめられてるんだ。



「お、きた、さん?」



ボクが名前を呼ぶと



抱きしめている力が強くなった。



「…お願い」



ふと、か細い声が聞こえた。



「心配させないで。」



そう言うとさらに



力が強くなる。



ちょっと息苦しい…けど。



嬉しい、かな。



「沖田さん」



「…何?」



「ボクは…未来に帰る気はないんです。


 だから、ずっと新撰組にいてもいいですか?」



「「「「「勿論だ!!」」」」」



沖田さん以外の声も聞こえて



少しびっくりしたけど



ボクは認められてるんだ。



よかっ…た…。



疲れが今出て来たのか



ボクはそのまま意識を失った。





























目が覚めたのは夜のことだった。



真っ暗な部屋に隙間から



月明かりが覗いている。



…なんかいつの間にか着替えてるんだけど。



まあ、そこは気にせずに。



ボクはゆっくりと布団から出て



障子を自分が通れるくらい開けて



中庭の縁側に出た。



三日月の綺麗な夜。



辺りには誰もいない。



この時ボクは本当に



何をしたかったのか



自分でも分からない。



でも何故か勝手に身体が動いた。

























「…土方さん、あれ、鈴香じゃないか?」



そう言って平助が指差した先には


朝血だらけで戻ってきた鈴香の姿。


黒髪短髪でどこか不思議な


未来から来た少女。


その少女が中庭で舞っている。


なんの舞かは分からないが


俺達には凄く儚げに


綺麗に見えて、


少しでも触れて仕舞えば


壊れてしまいそうなくらい


儚げだった。


そのうち蛍達が集まって来て


花びらと共に


そこだけ時が進んでいるかのように


綺麗な夜だった。


唐突だが、鈴香と呼ぶのは慣れない。


こいつは最初『美吉野 岐山』


と名乗っていた。


理由は…分からないが。


ただ何となくだけど知っている。


花菖蒲の種類だろう。


菖蒲、と言えばわかるだろうか。


ああそういえば、


俺の俳句も知っていたな。


しかも何故か恋の詩。


…歌っているのか?


口が動いているように見えるが…。


「土方さん、あれ鈴香歌ってね?」


「…お前も聞こえるか」


「じゃあ土方さんも?」


「ああ」



平助もそう思ったなら


彼奴は歌っているのだろう。


あ、やっとはっきりと聞こえて来た。



“桜の深く 舞ふ頃に


常世へ誘なう 蛍の火


私は貴方を想ひませう


あなたも私を想ひませう


それはずっと永遠(トワ)に”



未来の歌の歌詞だろうか。


俺たちにそれは分からないが


彼奴が悲しんでいるのは分かった。