話を聞くだけで腹立ちを覚えるのだが、彼女はまだ両親の死も上手く呑み込めていないのか自分の話なのに反応があまりない。
 そんな状態だったからこそ、葬儀に駆けつけた両親は自分たちが後見人になると宣言しシャルロッテ嬢を王都まで連れてきたのだという。
 それでも、このままではまた跡を継いだ辺境伯がなにかしないとも限らない……。

 「そんなわけで、お前。こちらのお嬢さんと結婚したらどうかと思うんだ。公爵の妻ともなれば、さすがになにもできないだろう?」

 そう、父はここに来て俺にとっても運が味方するような話を持ち出したのだ。
 一目惚れした彼女を妻に迎えることが出来る……。
 こんなことがあっていいのか? 内心で小躍りする自分を諫めるように目の前の彼女を見れば、ようやく初めて視線が合った。

 澄んだ泉のようなエメラルドグリーンの瞳が、俺を見つめそして陰った。
 俺はこの時の彼女の反応で、この話がじつは彼女にとって望んでいたものではないことを知る。

 社交界ではあまり見かけていないが、もしかしたら俺の噂などは聞いているのかもしれない……。

 まさか人生30年超えて、ここに来て一目で恋に落ちるなど考えていなかった自身のこれまでの行動故に自業自得なのだが、悔やんでいても仕方がない。 

 しかし、過去を変えられるわけではない。
 今この時から、彼女に誠実であるために行動せねばなるまい。

 「シャルロッテ嬢。今はまだいろいろ気持ちも複雑なことでしょう。あなたが落ち着けるように、まずは公爵家の庇護があると示すためにも婚約というかたちを取りましょう」

 彼女に誠意を見せるにはまず、俺の身辺整理が必要。
 そのうえで、彼女に自分の気持ちを伝えていかなければならない。
 しかも彼女の様子からしてマイナスからのスタートで、しかも歳だって十五歳も離れている……。