社交シーズンの盛りにある現在、王都では毎日どこかしらで夜会などがあり、あれこれと選んでは出席する日々を過ごすハルバートだがこの日予定は変更された。

 数日前、前公爵である両親がとある友人の事故死の知らせを受けて辺境伯家へと向かった。
 葬儀に参列して友人の死を悼んだ両親が昨日帰還すると、タウンハウスからハルバートに向けて本日顔を出すようにと知らせが届いたのだ。

 王宮で宰相補佐官として働きつつ社交界では浮名を流す、次期宰相候補のハルバートはまだまだ自由を謳歌する気でいた。
 そう、ついさっきまではである。

 いつもは王宮に与えられている個室で寝泊まりしているハルバートが、両親に呼ばれて久方ぶりに戻った自身の家でもある王都のタウンハウスに行けば、そこにいたのは可愛らしく清楚な美しい令嬢だった。

 年のころはデビューしたてのご令嬢。
 自分の周りにはなかなかいない雰囲気の美しく愛くるしい令嬢に、一目でノックダウンした。
 そんな内心は一切表には出さないまま、両親の間に座る令嬢を見つめつつ声をかける。

 「久しぶりに顔を出せというので、何事かと思いましたがこちらのお嬢さんはどうしたのです?」

 彼女からゆっくりと視線を父親の方に向けてハルバートは話を聞くことにする。
 父である前公爵、フィリップはその今でも整った相貌を陰らせつつ話し始める。

 「彼女はアルグバーン辺境伯家の娘でシャルロッテ嬢だ。今年十八歳になるが辺境伯夫妻が事故で亡くなってな。辺境伯は国防を兼ねる故に女では爵位は継げぬ」

その事は貴族であれば、大抵のものは知っているし、理解する。
それがどうして彼女がここにいる事態になったのか、そこが気になる。
俺の聴く姿勢を見て、父は続きを話してくれた。

「辺境伯の弟が爵位を継いだが、そやつはあまり良いとは言えぬ人物でな。彼女を、金目当てに成金商家の後妻にしようとしていたんだ」