亜里沙の残り香がさっきまでそこに彼女がいた事を教えてくれた。

乱れたベッドのシーツに触れるとそこはまだ僅かに温かさを残していた。

無性に切なくなってシーツを引き寄せ剥がすと、抱きしめるように亜里沙の寝ていたであろうその部分を顔に寄せる。

ふわりと亜里沙の香水の香りがした。


「シャネルの『エゴイスト』か…俺も昔使っていたよな。
陽歌に誕生日にプレゼントされた香水に変えてから使わなくなったけど」


不思議に思っていた。亜里沙が何故男物の香水をつけるのか。

別に女性がつけても不思議ではないが、亜里沙にエゴイストは少し違和感があった。

『彼の香水なの』

以前不思議に思って訊いた時、亜里沙はそう言っていた。

虫除けに嫉妬深い男がつけさせているんだろうくらいにしか思っていなかったが、実際には付き合っている男なんていなかった。