「それじゃあ、俺は先に戻ってるね。また教室で」
「う、うん。バイバイっ」
真由に笑顔で手を振って、歩いていく男。
その背中が見えなくなるまで、俺は動けなかった。
「こうくん……?」
「……っ」
真由に名前を呼ばれて、ようやく我に返る。
「どうしたの? またぼーっとしてるよ……? やっぱり熱でもあるんじゃ……」
「……いや、大丈夫だから。……ていうか」
返事って、何……?
そう聞こうと思った瞬間、タイミング悪くチャイムの音が鳴り響く。
「わっ、予鈴鳴っちゃった……! 早く教室に戻ろう、こうくん……!」
「……ん」
聞きたい言葉を呑み込んで、俺は今にも消えそうな声で返事をした。